日本国内には様々な建物があります。
一軒家から超高層ビルまで、その大小や新旧はさまざまです。
こうした「建物」を手放したり、手に入れたりするときに必ず「値段」が付きますが、それは一体どのように決まっているのでしょう?
実は、値段を決めるには〈不動産鑑定士〉の力が必要不可欠なのです。今回は、そんな不動産鑑定士のイロハを徹底解説します。
不動産売買に関心のある方や、不動産鑑定士の仕事に興味がある方はぜひご覧ください。
目次
不動産鑑定士とは?
・建物の値段を決めるプロ
不動産鑑定士とは、一言でいえば「建物の値段を決めるプロフェッショナル」のことです。
土地や建物のような不動産の価値を鑑定・評価できる国家資格です。
マンションや一軒家など、不動産を所有する依頼人から受け渡しに関する相談があった際に、その価値を客観的に判定するのが一般的な業務になります。
こうした「値札をつけるお仕事」の他にも、「所有する不動産をどのように有効活用すべきか?」のコンサルティング業務もあります。
不動産鑑定士の年収はいくら?
2020年に実施された賃金構造基本統計調査(厚生労働省)によると、不動産鑑定士の平均年収は約536万円で、年間賞与(ボーナス)は約108万円でした。
つまり、不動産鑑定士になると合計計700万円近くの年収が期待できます。
同年の給与所得者の平均年収が436万円(令和2年分 民間給与実態統計調査-国税庁)であることを踏まえると、不動産鑑定士になると平均年収のおよそ1.5倍の年収が見込めます。
国家資格であること、また不動産という大金が動く責任感のある仕事を任されていることを考量すると、それ相応の年収であることも納得できます。
不動産鑑定士のニーズ
不動産鑑定士は文系三大国家資格と言われ、弁護士・公認会計士と並んで需要と供給のバランスが最も取れている士業の1つです。
時代の変化や景気変動に影響されず、また公共物を扱うこともあるため、大きな災害等により建物や土地が消滅しない限りは需要と供給が安定的に存在します。
また国土交通省の「地価・不動産鑑定」によると、2021年の日本に存在する不動産鑑定業者数は4,588社、さらに翌年(2022年1月1日時点)の不動産鑑定士の登録人数はそれよりも多い9,733人と、不動産鑑定業の仕事に興味をもつ方々は年々増加しつつあります。
不動産鑑定士は土地と建物の多い都市部に集中していますが、国土の狭い日本では全国的に都市の再開発が求められているため、今後より多くの有資格者が必要になると考えられています。
「将来性があり、労働形態にもよりますが簡単には食いっぱぐれない」、これは不動産鑑定士の魅力の1つでしょう。
不動産鑑定士の仕事内容は?
そんな安定的な職業である不動産鑑定士ですが、具体的にどのような業務を行っているのでしょうか?
ここでは、不動産鑑定士の主な業務を2つご紹介します。
不動産鑑定士の仕事内容①不動産の鑑定・評価
その名の通り、不動産の鑑定・評価は不動産鑑定士の本分です。
不動産鑑定士は、不動産の経済価値について周辺の経済状況や地理的状況などを踏まえ、以下の2つについて評価します。
・公的評価
国や都道府県、市町村などが、土地の適正価格を一般向けに公表(地価公示)するために行います。
これにより、一般的な土地取引の指標がれき上り、自由で公正な土地・不動産売買が実現できます。
他にも、固定資産税や都市計画税の算出などがあります。
・一般鑑定
個人や企業が、不動産売買や固定資産の整理を始める際に行います。
他にも、M&A(企業買収)や不動産を証券化する際の資産評価等に用いられます。
公的評価よりも一般鑑定の依頼を受ける不動産鑑定士は多いです。
また不動産競売物件の評価人としての活動は、特に地方を中心に活動する不動産鑑定士の貴重な収入源になります。
不動産鑑定士の仕事②コンサルティング業務
コンサルティング業務は不動産鑑定士の知識と経験を活かし、不動産の活用方法について企業や個人へのアドバイスを行う業務です。
コンサルティング業務には、不動産の資産管理業務や企業が保有する不動産の有効活用などがあります。
したがって、土地やマンションを経営するオーナー向けに経営者の目線でアドバイスを行う機会も少なくありません。
また、画一的なコンサルティングでは価格競争に巻き込まれてしまうため、不動産の特性に合わせたクリエイティブなアイデアを提案し、他のコンサルタントとの差別化を図る不動産鑑定士も存在します。
さらに、コンサルティング業は海外でも通用します。
土地の市場状況や経済情勢を理解しておけば鑑定・評価ができるため、海外で活躍する不動産鑑定士も一定数います。
不動産鑑定士になるには?
・資格を取得する
不動産鑑定士になるためには、まずは国家資格を取得する必要があります。
不動産鑑定士には学歴や年齢のボーダーラインはありません。
受験料さえ支払えばどなたでも受験することが可能です。
試験は2段階方式で行われ、5肢択一式の短答試験と、論文式の記述試験があります。
この短答試験に合格した方のみが記述試験に進むことができ、記述試験にも合格してようやく、不動産鑑定士試験に「合格」となります。
ちなみに、短答試験は合格した年を含めて3年以内なら、記述試験のみの受験で不動産鑑定士の資格を取得することができます。
気になる合格率ですが、国土交通省が公表したデータによると、2022年の不動産鑑定士試験の合格率は16.4%です。
また、合格者の性別は男性113名・女性30名で、最高齢は61歳・最年少は20歳です。
・実務経験を積む
不動産鑑定士として業務を行うためには、資格を取るだけではいけません。
資格を使い「実務修習」を受ける必要があります。
初めは研修生として不動産鑑定事務所などに所属し、実際に働きながら実務にまつわる知識の補完を行います。
講義はインターネットのeラーニングで受講可能です。
現役鑑定士の指導を受けつつ、鑑定評価報告書の作成手順を、基礎知識の定着と実地演習の2軸で学んでいきます。
ちなみに、修習期間は1年と2年の2種類のコースが用意されていることが多いです。
こうして全てのカリキュラムを消化し「修了考査」に合格すると、不動産鑑定士協会に実務家として登録できるようになります。
不動産鑑定士協会は各都道府県に存在し、入会によりプロの不動産鑑定士として本格的にスタートできます。
・勉強について
「不動産鑑定士は国家資格だから、相当勉強しないと受からないんじゃないの?」と思う方もいることでしょう。
資格の学校TACによると、不動産鑑定士試験の勉強時間は2,000~3,700時間が一つの目安とされています。
学習期間は1~2年が一般的で、苦手の度合いやキャリアプランに応じて学習プランを計算しているケースが多いです。
学生であれば夏休みや冬休み等の長期休暇を試験勉強に充てることができますが、本業が忙しい社会人などは、定時で帰宅した後や休日を勉強時間に使う必要があります。
いずれにせよ、一朝一夕で得られる資格ではないので、タイムスケジュールとモチベーションの管理は入念に行う必要があります。
不動産鑑定士はどんな人に向いてる?
ここでは不動産鑑定士の適性についてご紹介します。
あなたはいくつあてはまるでしょうか?
・責任感のある方
どの仕事においても、お金をもらう以上はそれ相応の責任はつきものです。
特に「土地の価格を決定できる」という絶大な権限が与えられている不動産鑑定士には、とても大きな責任が伴います。
不当鑑定(実質的な価値以上に安い価格を恣意的につけてしまう等)をすると協会からの除名処分を受けることにもなりかねません。
不動産鑑定業は官民問わず社会と深いかかわりを持つ職業です。
高い規範意識と責任感をもって社会に貢献したいという方にはおすすめです。
・独立や起業がしたい方
不動産鑑定士は、「将来的に独立して自分で会社を作りたい」といった独立志向の高い方におすすめできます。
弁護士の「弁護士法人」や公認会計士の「監査法人」とは異なり、営利を目的とした法人を資格ひとつで設立できるため、社長として鑑定評価以外の業務にも幅を広げながら活躍できます。
先ほど述べたコンサルティング業務もその一環で、クライアントとの相談で培った「ヒト・モノ・カネ」に対する見方は、不動産業界以外にも応用できるかもしれません。
また、不動産鑑定士は「アイデア力」が求められる仕事です。
各不動産の最適な利用方法を考え、不動産オーナーの収益を増やす。
こうした収益性の向上や不動産の新しい使い方を考えるには、ひときわ目立った企画力・想像力が必要です。
これらのスキルは独立・起業をするのに大変役立つため、不動産鑑定士を通して身に付けるのも一つの手です。
・論理的な方
前述したスキルとは真逆ですが、不動産鑑定士には高い論理的思考力が求められます。
不動産鑑定士が公的評価として算出した地価や固定資産税は大きな社会的影響力をもちます。
これらを「なんとなく」や「およそこんな感じ」と曖昧に算出しては、公正な価格にならず、受益者に無用な不利が生じてしまう恐れがあります。
そのため「なぜその数字を算出するに至ったのか」を客観的な視点で説明する必要です。
「不動産業界の環境や鑑定手法は社会情勢などにより変化しますが、各鑑定士は指針に基づき適正かつ論理的な評価を下す必要があります。
論理的思考力は不動産鑑定士に最も必要な素質ですので、自信のない方にはあまりおすすめしません。
さいごに
不動産鑑定士はただ土地や建物に値札をつけるだけの仕事ではありません。
不動産の公平公正な取引のため、また残った不動産を未来の世代に資産として引き継ぐために必要不可欠な仕事です。
国・地方自治体から個人・企業までを幅広くサポートし、力強く社会活動を支える。
こうしたミクロ・マクロ両方の視点や強い責任感をもち業務に取り組める人が、不動産鑑定士たり得ます。
当記事が不動産鑑定士を知るきっかけになれば幸いです。