目次
Q 管財事件の場合、債務者の方が残せる資産は?
A 管財事件の場合は、原則として99万円相当までの財産を手元に残すことができます。業界用語で、「自由財産拡張」といいます。
Q 「自由財産拡張」とは?
A 破産した場合に残せる資産は、原則として、民事執行法に定められる差押え禁止財産に限られます。民事執行法では、家財道具や標準的な2か月分の生活費(66万円)に相当する金銭などが差押え禁止財産とされています。破産管財人は、差押禁止財産以外の財産はお金に換えて債権者に配当することが原則です。しかし、この原則を貫いてしまうと、破産法の目的である、債務者の方の経済的再生をはかることができません。例えば、医療保険は、差押禁止財産ではありませんが、高齢の方や病気を持っている方の保険を破産管財人が解約してしまうと、再度保険に入ることは難しく、十分な医療が受けられなくなってしまい、経済的再生に支障をきたします。このような、個別の事情を考慮して、差押禁止財産以外の財産を自由財産として拡張し、お金に換える対象財産から外すことを「自由財産拡張」というのです。
Q 「同時廃止事件」よりも「管財事件」は債務者にとって有利?
A 必ずしもそうとは言えません。管財事件となった場合、破産管財人に引き継ぐ現金を用意しなければなりません。業界用語で「予納金」といいます。予納金の額は、事案によって裁判所が決めますが、裁判所は最低予納金を定めています。大阪地裁では、最低予納金を20万円としていますので、20万円以上の現金を用意しなければなりません。
例えば、99万円の財産を残せるとしても、20万円以上のお金を用意しなければならないので、必ずしも管財事件が有利とは限らない、ということになります。
但し、医療保険や生命保険は一度解約してしまうと、再度加入することができない場合がありますので、例えば、医療保険や生命保険の解約返戻金額が合計90万円だとすると、20万円を用意して、管財事件として申し立て、自由財産の拡張を受ける方が本人にとって良いという場合もあります。
Q 自由財産の拡張の方法は?
A 自由財産の拡張をしてもらうためには、債務者が申し立てる必要があります。破産申立と同時にするのが原則で、破産申立ての書式の中に自由財産拡張申立てに関する記載欄が組み込まれていることが多いです。
但し99万円の範囲内なら、どのような財産でも自由財産拡張してもらえるということではありません。
自由財産として拡張するのにふさわしい財産というのがあります。裁判所ごとに運用基準を定めていることが多いのではないかと思いますが、一般的に、現金、預貯金、保険、敷金・保証金、自動車、退職金、過払金などで、株式やゴルフ会員権、不動産は拡張対象にはなりません。
Q 外貨預金や仮想通貨は現預金?
A 外貨預金は元本割れのリスクのある金融商品ですので、預金とは異なります。また、仮想通貨も通貨と言っていますが、変動も激しく、法律上も「暗号資産」という資産の位置づけで、通貨ではありません。したがって、いずれの財産も自由財産拡張の対象にはならないと解されます。
Q 99万円超えは管財人がお金に交換?
A いいえ。そうではありません。例えば、自動車が30万円、生命保険が50万円、医療保険が70万円だったとすると、自動車と生命保険のみ拡張してもらうということもできますし、99万円を超えた部分である51万円を用意して管財人に渡すことにより、自動車、生命保険、医療保険の全部を手元に残すことが可能となります。
また、例外的ではありますが、99万円を超える財産であっても自由財産拡張が認められるケースもあります。すなわち、99万円を超える部分のお金を用意する必要がない場合です。典型的な例は、医療保険の解約返戻金が99万円を超えているが、本人は無職無収入で今後も働くことができず、当該医療保険を利用しながら病気治療しているような場合です。