不動産鑑定士・飛松智志先生に聞く「新型コロナウィルス×公示地価 日本の土地の未来」飛松先生のインタビュー動画はこちら
目次
2021年7月時点で関西圏の公示地価が大幅下落
2021年7月時点の公示地価は、大阪の商業地が2.1%下落しました。この下げ幅は全国でも最も大きいものでした。
この商業地は2020年には公示地価7.7%上昇と高い伸びを示しましたが、新型コロナウィルス禍によるインバウンド、観光客の減少が響き、2021年には一転して8年ぶりの下落となりました。
地域別では大阪・道頓堀の老舗ふぐ料理屋「づぼらや」の跡地が28%下落と、全国の商業地の下落率でトップになりました。
主な下落率(関西圏)
ポイント名 |
下落率 |
大阪キタ |
1% |
グランフロント |
8.4% |
宗右衛門町 |
26.5% |
大阪市北区 梅田 |
2.4% |
心斎橋商店街 |
20.3% |
阪急HEP NAVIO |
9.7% |
都心部の商業地では下落が目立つも、郊外の商業地では上昇傾向
一方、郊外の商業地では一転して商業地の公示地価上昇が目立ちます。
また、兵庫県芦屋市や奈良県川西町など、住宅街も上昇率の多いポイントがあります。
主な上昇率(関西圏)
ポイント名 |
上昇率 |
大阪府箕面市船場東 |
8.2% |
大阪府箕面市白島 |
3.2% |
大阪府高槻紺屋町 |
2.5% |
京都府向日市寺戸町 |
2.5% |
奈良県川西町 |
4.5% |
兵庫県芦屋市 |
4.5% |
新型コロナウィルス禍における公示地価への影響は
新型コロナウィルスが話題になり始めたのが2020年。その前年から5年位前まではインバウンドで、大阪で一番高いところの土地値が倍ぐらいになりました。それがこの2年で半分くらい下落したかな、というのが肌感覚ですね。
下落の理由は、やはりホテルや飲食店、物販店舗の売上が下がったことですね。なぜ売上が下がったかというと、インバウンドがほとんどなくなったからですね。
キタとミナミの明暗
キタとミナミで言うと、ミナミが圧倒的に大きく落ちています。それはキタというのはもともとインバウンドというよりも、国内の旅行者や地方の方が買い物に来られる街だったのでした。対してミナミはアジア系の旅行者の方が中心となってお金を落としていたエリアなので、インバウンドが消えて一番影響を受けているのがミナミ、心斎橋なんば、というエリアになります。
ただ肌感覚でいうとそこまで下がっていないように感じます。下落率ではこの1年で26.5%となっていますが、実際の取引ではここまでは下がっていないと感じます。
実際に取引を何件か行っていますが、価格の高い取引も多いんですね。こちらからすると「そんな値段で買って大丈夫なの?」というような価格で取引がされています。買いたい人は今でもたくさんおられるのかな、という印象ですね。
公示地価=実勢価格の80%、は全てに当てはまるわけではない
「小学生にもわかる公示地価」では公示地価は実勢価格の80%くらいだとお伝えしましたが、場所によってはそれが当てはまらないこともあります。特に商業地では当てはまらない場所の方が多いですね。
心斎橋では路線価の3倍、4倍の取引も実際にあります。このような「高度商業地」と呼ばれているポイントは希少性も高いので、路線価の3倍を出しても買いたい、という方もいらっしゃいます。
路線価が1つの指標になる、とお話をしましたが、商業地に関して言うとあまりそうはならないのかもしれないですね。
需要と供給のバランスに左右される土地の価値
高度商業地はまず供給が絶対的に少ないんですね。まず手放さないですし、手放したとしたらみんな買いたいので需要が殺到してどんどん値段が上がっていきます。一番高い取引では路線価の5倍くらいの値が付くこともありました。
オークションではないですが、欲しい人がいればどんどん高くなる、というのがミナミやキタなどの高度商業地ですね。
なぜ都心部の公示地価は下落し、郊外の公示地価は上昇したのか
先ほども少し触れましたが、都心部の公示地価下落はインバウンドの減少が原因です。ホテルの稼働率が軒並み下がり、各種飲食店や物販店の売上が下がりました。2021年全体として下がっているというのは間違いないと思います。
郊外で上昇したのは、今までは淀屋橋や梅田など通勤していた方たちがリモートワークになり、地元で仕事をすることで都心部にお金を落とさず郊外に落とすようになったからですね。
通勤をしないで在宅で、という方が増えたことで住宅にお金をどんどん投資をするという関係性もあります。郊外の環境のいい住宅地の需要が増えていったというのも、郊外の価格が伸びた要因でしょう。
注目エリア! 箕面市の公示地価が急上昇中
箕面市船場東の上昇率が一番高いのですが、このエリアはちょうど私が管轄しています。
箕面船場東というのは御堂筋線が2022年秋に延伸を予定しているのですが、ちょうど駅かぶりつきのポイントになります。そこが大阪で一番の上昇率となった要員でしょう。
二番目の上昇率となった白島(はくのしま)。 このポイントは船場の次の駅、延伸後に終点になるんですね。このような特殊事情があってこの2つのポイントは公示地価が上昇しています。
大阪ミナミ公示地価20%下落。不動産鑑定士の「肌感」
20%以上落ちてはいるものの、肌感覚では落ちていない感じがしているんです。それはここ3,4年で上げ過ぎた感があるからかな、と。例えばここ3,4年で1番上がった時は40%くらい上がったと思うのですが、そのパーセンテージはベースとなる年から見て1.7倍くらいになっているはずなんですね。そこからは若干落ちたので20%暴落、という見出しにはなっているのですが、実際のベースからするとそれでも1.5倍くらいは上がっているので、まだまだ高いかなという感じがあります。指標的には20%落ちているけれども、実際にはそんなに落ちている感じはしないですね。
公示地価を決める基準
公示地価は、直近1年間の実際の取引ベースのデータを分析します。高い取引や安い取引がある中で、高い取引が多ければ上昇していると分析します。これは土地の取引ですね。
では取引が少ない場合は上昇も下落もしないのかというと、そうではないんです。特にミナミやキタというのは、誰も手放さないので取引が少ないんです。ではどのように調べるのかというと、賃料が上がっているか下がっているか、というところを見ていきます。賃料が上がっていれば土地の価値も上がるはずと分析しますし、反対に賃料が下がっている、空室率が拡大している、となるとマーケットが冷え込んでいるのではないか、と分析をします。間接的な分析をしているんですね。
2021年度公示地価、飛松先生の予想は?
2020年度にだいぶ下がった大阪のマーケットですが、2021年度はそこまでは下がらないのではないかと思います。かといって上がるとまではいかないと思いますので「若干下がり」くらいの感じではないかと予想しています。
<まとめ>
・大阪の主な商業地は軒並み公示地価が下落。
・そんな中、郊外の商業地では公示地価上昇中。
・公示地価=実勢価格の80%、は高度商業地には当てはまらないことも。
・御堂筋線延伸開業に向けて箕面船場東の公示地画が急上昇中。
・大阪ミナミの公示地価下落率、肌感としてはそこまでではない。
・公示地価を決める基準は実際の取引。取引が少ない場合は賃料や空室率から間接的な分析をする。
・2021年度の公示地価、飛松先生の予想は「若干下がり」。