アパートやマンションなどの賃貸住宅では、正当な理由なくオーナーから入居者へ退去を命じることはできません。
正当な理由とは、入居者がオーナーや管理会社との信頼関係を著しく損なう行為です。
そのような行為をした入居者には「強制退去」を命じることができます。
それでも、借主の保護は賃貸住宅所有者の法的なので、一歩手順を間違うとむしろ訴えられてしまう可能性もあります。
そこで今回は、賃貸住宅にて入居者の強制退去を行うまでの手順や注意点について詳しく解説します。
この記事を参考に、法律にのっとり慎重かつ適正に手続きを進めてください。
強制退去の元となるトラブル
強制退去は、トラブルの内容により執行までの手順が異なります。
賃貸住宅における、強制退去の元となるトラブルは大きく分けて3つあります。
②物件の損壊を招くトラブル
③近隣住民への迷惑行為
ここでは、それぞれトラブル発生から強制退去までにどのような手順を踏むべきなのかを解説します。
①家賃の支払いトラブル
家賃の支払いにおける主なトラブルは家賃滞納です。
入居者が支払い日を超えても支払いに応じない場合は、順を追って賃料回収に踏み切る必要があります。
早速、家賃の未払いが発生してから強制退去までの手順をみていきましょう。
1.家賃の支払い通知を送る
入居者が家賃を支払っていないという事実が確定したら、貸主や管理会社が家賃の支払い通知を入居者本人へ送付します。
通知は家賃保証会社によって異なりますが、はがきやショートメール、電話で支払い通知が行われることがほとんどです。
支払い通知が送られても入居者から賃料の振り込みがない場合は、会社の担当が本人の自宅を直接訪問し、支払いを促すこともあります。
2.連帯保証人に連絡が入る
1.を実施しても連絡ができない場合は、賃貸住宅の貸主や管理会社から連帯保証人から連絡が来ます。
賃貸住宅の貸主や管理会社が指定した期日までに支払いに応じなかった際に行います。
連絡をするのは、貸借人が賃貸契約(建物賃貸借契約)の際に立てた連帯保証人です。
このほかにも、法的措置による賃料回収が行われることもあります。
その場合、裁判所から入居者へ家賃を支払うよう督促通知を送付することになります。
ここで払わないと、仮執行宣言付支払督促の書類が作られ、差し押さえなどの強制執行の手続きに進んでしまうことになります。
②物件の損壊を招くトラブル
物件の損壊を招くトラブルとして、ペットの無断飼育があります。
これは文字通り、ペット不可の賃貸住宅にも関わらず、居室内でペットをこっそり飼育してしまうことを指します。
無断飼育が発生する理由として「ペットが住める物件が少ない」「ペットが飼える賃貸住宅は家賃が高くなかなか手が出ない」などがあります。
もし強制退去をしたい場合、まずはペットを飼っているという証拠を押さえましょう。
契約違反は目撃証拠だけでは足りません。
例えば、知人のペットを一時的に預かっている可能性もあるからです。
より確実な証拠を押さえたい場合は、室内点検を行うことも相談次第では可能です。
また、契約書内でペット「飼育禁止」という文言が入っている場合、契約違反となれば強制退去はスムーズに可能となります。
ポイントとしては、無断飼育が発覚した時点ですぐに対応することです。
対応が遅れたことにより、契約上禁止されている飼育を黙認していることになりかねません。
トラブルの事実確認は大切ですが、なるべくスムーズに手続きが進むよう手順を事前に確認しておきましょう。
③近隣住民への迷惑行為
賃貸住宅に住む近隣住民への迷惑行為の最たる例が「騒音」です。
週に何度も夜遅くまでお酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしている、楽器を演奏し大声で歌を歌っていると近隣住民に多大なる迷惑がかかります。
では、強制退去までの流れをみていきましょう。
前提条件として「契約時に締結した賃貸借契約書に騒音に関する記載が明記されている」「入居者本人が騒音で近隣住民に迷惑をかけている自覚がある」ことを確認してください。
そのうえで、以下の手順で手続きを進めましょう。
1.事実かどうかを確認する
まずは、苦情を他の入居者からヒアリングしましょう。
「うるさくてこまっている」ことを客観的事実として集めることがポイントです。
2.物件の入居者全員に通知
次に、騒音が起こったという事実を注意喚起として知らせましょう。
掲示板に掲示をしたり、ポストに投函したりと方法は様々です。
これにより、騒音主に対する注意喚起と、他の入居者がこれまで言い出せずにいた苦情を新しく拾うことができます。
3.入居者への勧告を行う
2.を実施しても改善しない場合は、勧告という形で入居者本人に直接注意することになります。
これは内容証明郵便という通達により行います。
これが騒音をやめてくださいという改善要求になります。
その警告として、要求に応じない場合の契約解除日が記載されています。
4.契約解除、建物明け渡しの訴訟を行う
内容証明郵便記載の期日までに改善されない場合は、賃貸契約を強制的に解除することになります。
解除後にオーナーから裁判所に建物明け渡し請求の訴訟を提起します。
その際、不動産登記謄本などの書類作成により、入居者の居住権を失効させる効果があります。
入居者の強制退去にかかる費用
入居者の強制退去にかかる費用は、係る手続きを自身で行うか、弁護士へ依頼するかで変わってきます。
ここでは、入居者の強制退去にかかる費用をケース別に解説します。
①強制退去までにかかる費用
1.自費で行う場合の費用
トラブル発覚~強制退去までにかかる費用は以下の通りです。
・連帯保証人への連絡費用
・督促に使用した郵便物の費用
・明け渡し請求訴訟の費用
・強制執行の費用
では、ひとつずつみていきましょう。
・家賃支払い通知費用
家賃の未払いを通知する書類になります。
費用としては【催促する際の電話料金や郵送物の準備、送料】となります。
各不動産会社やオーナーが独自で用意する私的な書類となるため、通常の郵送に必要な費用がかかります。
・連帯保証人への連絡費用
家賃支払い通知費用と同様に、連帯保証人への連絡費用も通常の郵送費用として発生します。
【催促する際の電話料金や郵送物の準備、送料】がそれにあたります。
・督促に使用した郵便物の費用
督促に使用した郵便物の費用は、内容証明郵便にかかる費用がほとんどです。
・書留料:420円
・配達証明料:300円
・郵便料金:80円
ちなみに2枚目以降の発行は1枚につき250円が追加でかかってきます。
・明け渡し請求訴訟の費用
予納金(明け渡しの執行官に預けるお金)を渡し、明け渡しの手続きにかかった費用分(執行官の手数料)を差し引きます。
余った分は返金されることになります。
予納郵便切手や予納金の請求に必要な収入印紙代も加味すると、約70,000円以上が相場となります。
ちなみに、費用は物件や相手方が増えるごとに25,000円が追加でかかります。
・予納郵便切手:約6,000円
2.弁護士に依頼した場合の費用
賃貸住宅の強制退去について悩んだ際は、弁護士への依頼を検討するのもおすすめです。
弁護士に依頼する際の主な費用は以下の3つです。
・着手金
・報酬金
・相談料
正式な依頼をする前に、トラブルについて弁護士に事前に相談すると発生します。 相場としては、30分~1時間で約5,000円となります。
・着手金
相談の結果、正式に依頼を行い、案件に着手した際に発生する費用が着手金です。
相場はトラブル内容により異なりますが、内容証明郵便の作成から強制執行までの手続きをすべて代行すると約20万円~50万円かかることがあります。
・報酬金
報酬金は、事件が無事に解決し場合に弁護士に対して支払う成功報酬です。
こちらもトラブル内容により異なりますが、約20万円~50万円かかることがあります。
②強制退去の費用を節約するには?
何かと高額になる強制退去の費用を節約する方法は2つあります。
1つは「賃貸住宅の強制退去にかかった費用を入居者に請求する」です。
請求債権目録を作り、強制退去にかかる費用をすべて掲載し、請求することができます。
ただし、支払いに応じるかは入居者の事情により異なるため、強制力はありません。
もう1つは「弁護士の無料相談や分割払いを利用する」です。
弁護士事務所により異なりますが、一定時間の相談が無料であったり、一括支払いが難しい場合は分割での支払いが可能な場合があります。
柔軟に応じてくれる弁護士事務所を探してみましょう。
入居者を強制退去させる際の注意点
強制退去は手順の抜け漏れがあると、逆に入居者から訴えられる可能性があります。
そうした無用なトラブルを防ぐために大切なのが【オーナー側に問題がないかをチェックする】ことです。
強制退去に踏み切るにあたって、手続きの正当性を欠くような行為がないかをチェックしましょう。
・高圧的な態度で話し合いに臨む
・家財を勝手に売却し未納家賃の支払いに使う
これらの行為は違法となる可能性があります。手続きの正当性を欠くような行為としてオーナー側に損害賠償が請求される可能性があるため、注意しましょう。
入居者を追求したくなる気持ちはぐっとこらえて、法的な手続きを進めるようにしてくださいね。
また、入居者がいかなる状況でも毅然と強制退去の手続きを進めることも重要です。
トラブルメーカーの入居者にありがちなのが、家賃滞納などで夜逃げをしたり、本人や連帯保証人に連絡を取ってもつながらないという事態です。
これでは訴える相手がおらず「このまま手続きを進めて本当に大丈夫なのだろうか」とだんだん不安になってきますよね。
これらへの対策としては「公示による意思表示」が効果的です。
これにより、裁判所を通して「強制退去の意思を入居者に示しました」と法的に意思表示できます。
訴訟の相手方がどこにいるかわからなくても、一定期間相手方の意思表示がなければ、そのまま所定の手続き(強制退去まで)を進めることが可能となるのです。
したがって、入居者がいかなる状況でも動じず、毅然とした態度で強制退去までの手続きを進める心構えが大切になります。
さいごに
賃貸住宅における強制退去を行うには、トラブルのほとぼりが冷める前になるべくスムーズに手続きを進める必要があります。
とはいえ「所有する賃貸物件の入居者を強制退去させたいけれど、お金も時間もかかりそう」と不安な気持ちは簡単には拭えないもの。
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