【教えて!濵野先生】弁護士に聞く「自己破産」事情

自己破産すると「預金口座」はどうなる?

相談者さん:
破産する場合、融資銀行の預金口座はどうなりますか。

濵野先生:
弁護士が融資銀行に受任通知を送ると、融資銀行は、貸金債権と預金残高を相殺して回収します。

相談者さん:
受任通知を融資銀行に送った後に、売掛金や給料等が入金された場合、これも相殺されてしまうのでしょうか。

濵野先生:
いいえ。

破産法には、支払の停止があった後に債権者が債務者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたときには、相殺することができないという規定があります。この規定により、融資銀行は、受任通知後に債務者の口座に入金されたお金を貸金債権と相殺して回収することは禁止されます。

相談者さん:
どういうことでしょうか。

銀行は、相殺による回収が「禁止」されている・・・?

濵野先生:
受任通知を受領することにより、融資銀行は、支払停止を知ったということになります。

他方、債務者の預金口座に入金があるということは、融資銀行は、債務者に対し、口座内のお金を返還する債務を負担したということになります。したがって、融資銀行は、債務者の支払停止を知った上で、債務者に対し、新たに債務を負担したということになり、相殺が禁止されるのです。

相談者さん:
ということは、融資銀行の口座に入金がなされる前に、受任通知を融資銀行に送付しておけば、相殺を免れるということですね。

濵野先生:
はい。但し、受任通知は、融資銀行に到達していなければなりません。

そして、到達した時刻と、口座入金時刻の先後が重要になりますので、受任通知が融資銀行に到達した日と、売掛金や給料等が口座に入金した日が同じ日である場合には、相殺をめぐり、分単位のシビアな攻防となります。

相談者さん:
なるほど。余裕をもって受任通知を発送する日を考えることが重要なのですね。

濵野先生:
はい。融資銀行の口座に入金予定がある場合には、相殺のことを意識しておくことが重要です。

「支払停止」を知るまでの間に負担した債務は「相殺」される?

相談者さん:
なぜ支払停止を知るまでの間に負担した債務については、相殺が許されるのですか。

濵野先生:
相殺というのは、債権者にとっては債権を回収する担保のような働きがあります。
債権者としては、債務者に対して債務を負担していることで、いざというときは相殺して自己の債権を回収しようという「相殺への期待」があるわけです。

支払停止を知らない状態であれば、債権者は、相殺できると期待し、債務者に対し、債務を負担するわけです。

しかし、債務者の支払停止を知ってしまえば、債権者は、債務者に対して債務を負担しなくなるのが通常です。
ですから、支払停止を知った状態で債務を負担するような場合には、債権者の「相殺への期待」を保護する必要がないということになります。

そのため、支払停止を知るまでの間は、相殺が許されるのです。